口腔機能低下症

食べたいものを食べられていますか?

 いつまでもお口から美味しいものが食べられることは大きな喜びであり、何よりも「元気で長生き」のために健康を維持していくには口腔機能の維持・向上が大切です。口腔機能は捕食(食べ物を口に取り込むこと)、咀嚼、食塊の形成と移送、嚥下、構音、味覚、触覚、唾液の分泌などに関わり、人が社会の中で健康な生活を営むために必要な基本的機能です。この口腔機能が加齢だけでなく、疾患や障害など様々な要因によって複合的に低下する疾患が「口腔機能低下症」です。

 2025年には30%が65歳以上になると言われており、年齢とともに咀嚼機能や舌口唇の機能がしだいに低下していきます。食べたいものが食べられなかったり、ご自身の状態が気になったりしている方はおられませんか?

 そこで、このページでは「口腔機能低下症」についてお話したいと思います。

フレイル

 最近、「フレイル」という言葉をよく耳にします。これは健康な状態と要介護状態の中間の段階を指し、「虚弱」と言う意味です。フレイルの前段階は「プレフレイル(前虚弱)」と言います。

 フレイルには、「サルコペニア(加齢性筋肉減弱現象)」や「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」などによる「身体的フレイル」、精神的な不調による「精神的フレイル」、周囲から孤立することによる「社会的フレイル」があります。

オーラルフレイル

 わずかなむせや食べこぼし、滑舌の低下といった口腔機能が低下した状態が「オーラルフレイル」で、何も対策を取らないとやがて「口腔機能障害」へと進行します。オーラルフレイルは色々な形で全身のフレイルへも影響を及ぼします。千葉県柏市在住高齢者2,044名を対象とした45か月間の縦断調査(柏study)では、口腔機能が健全な方に比べてオーラルフレイルは身体的フレイルを2.4倍、サルコペニアを2.1倍、要介護認定を2.4倍、総死亡リスクを2.1倍、新規発症のリスクを上昇させることが示されました。このことからも、オーラルフレイルへの対応や将来の健康寿命の延伸のための医療手段(技術)が重要なことが分かります。

 なお、この言葉は国民の啓発に用いられる用語(キャッチフレーズ)だそうです。

口腔機能低下症

 口腔機能低下症は、う蝕や歯の喪失など従来の器質的な障害とは異なり、いくつかの口腔機能が低下する複合要因によって現れる病態です。オーラルフレイルは口腔機能が低下した状態ですが、口腔機能低下症は検査結果に基づく疾患名です。診断のための「口腔機能精密検査」には以下の7項目があります。

7項目のうち3項目以上が該当すると口腔機能低下症と診断されます。
「舌苔付着度」から口腔衛生不良状態を評価 
「舌苔付着度」から
口腔衛生不良状態を評価

2.「口腔水分計」を用いて口腔乾燥の程度を評価
「口腔水分計」を用いて
口腔乾燥の程度を評価
3.「咬合力測定機器」を用いて咬合力低下を評価
「咬合力測定機器」を用いて
咬合力低下を評価
4.「パ・タ・カ」の連続発生により舌口唇機能低下を評価 
「パ・タ・カ」の連続発生により
舌口唇機能低下を評価
5.「舌圧計」を用いて低舌圧の評価
「舌圧計」を用いて
低舌圧の評価
6.「グルコセンサー」を用いて咀嚼機能低下を評価
「グルコセンサー」を用いて
咀嚼機能低下を評価
7.「聖隷式嚥下障害質問紙」などを用いて嚥下機能低下を評価
「聖隷式嚥下障害質問紙」などを用いて
嚥下機能低下を評価

当院にて噛む力や舌の力の測定をしてみましょう

 口腔機能低下が進行すると、咀嚼機能不全や摂食嚥下障害など経口摂取を著しく障害する状態になり、その結果、栄養障害が起こり、全身の筋力低下や要介護状態に陥ることになります。特に高齢者では、サルコペニアなどにより身体の活動性を低下させ、生命予後を悪化させます。加齢に伴い歯数、口腔衛生、口腔機能など様々な口腔状態の変化が起こり、口腔健康への関心の低下や心身の予備機能低下と重なり、口腔の脆弱性が増加し、食べる機能の障害へと陥ります。

 日頃からきちんとしたセルフケアを心掛けるとともに、ご自身でケア出来ない部分は定期検診を通してプロケアを受けるようにして下さい。そして、口腔機能低下症が疑われたら口腔機能精密検査で精査し、不可逆的な状態に陥らないために継続的な口腔機能管理を実施し、口腔機能低下症からの回復を目指すことが重要です。